桐島、会社やめるってよ

読んだ本や見た映画についてのアレコレ

『そのへんをどのように受け止めていらっしゃるか』

 
自分の中の違和感を言葉にすることの大事さ

昨日までに何かに憤っていたり、悲しんでいたのにもかかわらず、それが何だったのか思い出せないということは多々あると思う。

以前、TBSラジオのSession 22にライターの武田砂鉄さんがゲスト出演した際、「最近はコロナの報道で皆さん忘れているかもしれないけれど、こんな問題があったんですよ」というコメントとともに、当時報道されていた様々な問題を荻上チキさんと振り返っている場面があった(と思う)。

ちなみに、その当時私も政権与党の傍若無人ぶりに結構憤っていた覚えがあるのに、今となっては何について怒っていたのかあまり思い出すことができない。Session22でこんな話があったかどうかも自分の妄想なのではないかとさえ感じる。

 

安倍首相辞任表明後になぜか安倍首相への支持率が20ptほど上昇したことにもわかるように、日々の生活に必死な私たちは何に怒っていたかなんて、三歩外を歩けば忘れてしまうものなのだろう。つらい思い出をずっと覚えているのも、精神衛生上よくないし。

激しい憤りや強い悲しみさえ一定期間後に忘れてしまうのなら、ちょっとした違和感など言わずもがなだろう。

 

そんななかにあって、能町みね子さんの「そのへんをどのように受け止めていらっしゃるか」は、一瞬で忘れてしまった違和感を思い出させてくれるとっておきの本だった。

 

「そのへんをどのように受け止めていらっしゃるか」は週刊文集で能町さんが連載しているコラムをまとめた本の3冊目で、2018年から2020年上期までの新語流行語から政治的問題まで幅広くカバーしている。

 

さっそくページを開くと、品川の新駅名称募集についてのアレコレが。そうだった、忘れていた。当時は「高輪ゲートウェイ駅」になるなんて思いもしなかったけど、能町さんはお上のやりそうなこと(市井の人々の声をガン無視するダサいネーミング)を卓越した先見の明で予想していた。すごい。

 

ところどころで取り上げるのが相撲の話題。ゴシップや政治家の話題に対する切れ味鋭い筆致も、相撲のこととなると優しい文章になるという能町さんの好角家としての一面が垣間見ることができる。厳しい学校の先生が実はすごく涙もろかったみたいなギャップ萌えに愛おしさまで感じてしまう。

 

私がこんな恥ずかしい文章力でブログを書き始めたのも、能町さんの違和感をそのままにせずに言葉にするという姿勢を勝手にリスペクトしているから。

能町さんが文章を書くモチベーションは私とは全く違うところにあるだろうが、コミュニケーションの肝は受け取り手に自由な解釈がゆだねられているところにあると思っている。