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『カルメン故郷に帰る』

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天才監督と言われる木下恵介が監督した『カルメン故郷に帰る』。日本初のカラー映画らしく、気になったので見てみた。木下恵介作品を見るのは初めて。

 

あらすじをざっくり書いておくと、北軽井沢に生まれ育った「きん」は家出ののち、東京で「リリー・カルメン」という名のストリッパーとして生計をたてるようになる。父親の反対を押し切り、きんは友人のストリッパーとともに盛大に帰郷するが、2人の姿をみた村人たちは色めき立つ。自分たちの「芸術」を理解しない村人たちに対して、2人はショーを村で開催することを思い立つ。一方、きんの幼馴染の岩田は音楽的な才能を有しつつも、戦争で視力を失った結果、生計は妻に頼りきり。借金がかさみ、唯一の慰みであるオルガンまで、地元の有力者で金を借りていた丸十に取り上げられてしまう・・・という感じ。

 

まず何よりも面白いのは、劇中で描かれている軽井沢の風景。軽井沢といえば、今や清閑な別荘地というイメージだが、1950年といえばまだ戦争の爪痕も日本のあちこちに残る時期で、人々の記憶にもまだ新しいはず。見渡す限りの草原や浅間山の壮大な景観が日々の生活のそばにあることがわかる。人々は農業とか放牧で生計を立てている模様。学校は薄汚れた平屋みたいな感じだし、村人は浴衣とかもんぺみたいな服を着ている。学校の先生に対する子供たちの丁寧なあいさつ。学校の校長(おなじみの笠智衆)だけびしっと背広を着ていて村で頼りにされる人物であることがわかる。そんな自分が知らない日本の姿に改めて面白味を感じる。

 

そして、そんな牧歌的な風景に突然カットインしてくるおきんたちのけばけばしい存在感。そんな2人を腹の底ではいくぶんか馬鹿にした気持ちが見え隠れする村人たち。今でも個性的な人間を見ると、大方の日本人が抱くであろう感情がそこにはあって、これはもうずっと続く日本社会の感情なんでしょうね。

村人の遠慮のない視線を気にせず、リリー・カルメンは歌い踊る。口癖のように「私は芸術家だわ~」とか「田舎もんは芸術を理解できなくていやんなっちゃうわよね」という。それ自体にもどこか滑稽さを感じるが、それを見てつぶやく岩田の「君は幸せもんだな」というセリフが良い。

 

結末としては、ストリッパーの2人が父親の反対を押し切って、田舎のステージでストリップを披露し、それで稼いだお金が結果的に岩田家族を救うという話なのだが、なんだか戦争直後の日本社会の悲哀と希望が入り混じった雰囲気にどこかマッチし、さわやかな感動を感じたものだった。90分くらいの短い映画ということもあり、平日の夜でもさくっと楽しく鑑賞した。

 

ちなみに、Netflixで見ることのできる木下監督の作品は2020/11/27時点で『二十四の瞳』と『カルメン故郷に帰る』の2本のみ。次は二十四の瞳を見る予定。ストリッパーを演じた女優が次は先生役ということで楽しみ。