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『リチャード・ジュエル』

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あらすじ
アメリカン・スナイパー」の巨匠クリント・イーストウッドが、1996年のアトランタ爆破テロ事件の真実を描いたサスペンスドラマ。96年、五輪開催中のアトランタで、警備員のリチャード・ジュエルが、公園で不審なバッグを発見する。その中身は、無数の釘が仕込まれたパイプ爆弾だった。多くの人々の命を救い一時は英雄視されるジュエルだったが、その裏でFBIはジュエルを第一容疑者として捜査を開始。それを現地の新聞社とテレビ局が実名報道したことで、ジュエルを取り巻く状況は一転。FBIは徹底的な捜査を行い、メディアによる連日の加熱報道で、ジュエルの人格は全国民の前で貶められていく。そんな状況に異を唱えるべく、ジュエルと旧知の弁護士ブライアントが立ち上がる。ジュエルの母ボビも息子の無実を訴え続けるが……。(映画.comより)

 

感想

数年前に劇場公開された本作。評判の良さは知っていたけれど、そのうちNetflixで見れるでしょ・・・と待つこと10ヶ月。早っ!!公開から10ヶ月ぽっちでNetflixで見れてしまうんですね。すごい。

実際の事件をベースに作られた本作では、ステレオタイプ化された犯人像にメディアが群がり、無実の人間を苦しめるという構図が今っぽい。しかし、この実際の事件は1996年に起きたというから、逆に言うと、10年以上たってもメディアの情報に大衆が驚され群がりそれを消費することにはあまり変わりがないともいえる。

主人公リチャードを演じるのは、ポール・ウォルター・ハウザーさん。本作以前はKKKの一員等、ホワイトトラッシュの典型みたいな役を演じてきた。ホワイトトラッシュってこんなやつだよね、っていう観客の胸の内に渦巻く偏見や価値観を逆手にとったすごい配役。おまけに本当のリチャード・ジュエルにも顔が似ている(!)

劇中、実は実際のリチャードさんのインタビューが流れるが見ている観客にはそこがあまりにシームレスにつながるために、実在のインタビューとは気づきにくい。

リチャードが爆破事件から人々を救ったという英雄になった後に犯人として疑われてからの展開はあまりの理不尽さに胸がむしゃくしゃする。あまりに盲目的にFBIの捜査に協力的なリチャードに「なにやってんだよ、バカ!」とつぶやいてしまう。そんな愚直なまでの素直さに見ているこちらがイライラさせられる。そんな観客である我々と同様にイライラが高まった弁護士のワトソンはリチャードに声を荒げて怒る。「あいつらにさんざん馬鹿にされてお前はなぜ怒らないんだ」

それに対するリチャードも本心をぶつける。「昔からさんざんいじめられ嫌な目にあっても怒りを飲み込んできた。法執行官としての矜持を保つために」

これは弁護士のワトソンだけでなく観客にも突きつけられるメッセージであり、内心馬鹿にしていた彼から本心を見せられると動揺する。

水面下でくすぶる差別意識や不満の意識がメディアによってあおられれば、英雄が犯罪者へと祭り上げられる。そんな現代社会の問題がこの映画では鋭く問いかけられていた。

俳優陣の熱演もさることながら、90歳のクリント・イーストウッドのあくなき映画探求にもおそれをなした。