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『スパイの妻』

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あらすじ
2020年6月にNHK BS8Kで放送された黒沢清監督、蒼井優主演の同名ドラマをスクリーンサイズや色調を新たにした劇場版として劇場公開。1940年の満州。恐ろしい国家機密を偶然知ってしまった優作は、正義のためにその顛末を世に知らしめようとする。夫が反逆者と疑われる中、妻の聡子はスパイの妻と罵られようとも、愛する夫を信じて、ともに生きることを心に誓う。そんな2人の運命を太平洋戦争開戦間近の日本という時代の大きな荒波が飲み込んでいく。(映画.comより) 
 感想

世間は鬼滅の刃一色の中、私は日本橋コレド室町でレディースデイを利用して「スパイの妻」を見てきた。黒沢清監督といえば、最近では「クリーピー偽りの隣人」や「散歩する侵略者」などエンタメ作品としても楽しめる作品も多いが、海外では「CURE」や「回路」などその芸術性というか人間心理を抉り出す映画の作り手としての評価が集まっている(と個人的に思っている)。ちなみにに「クリーピー」における香川照之さんの奇抜さ・面白さは半沢直樹での彼以上と思っている。

 

本作は、夫婦の愛に関する映画だと思ったので、なかなかないテーマではないか?と期待しながら映画館に足を運んだ。

 

まず気に入ったのは意外にも東出昌大さんの演技だった。よく彼の演技は棒読みだとか言われるけれど、これはこういう昭和初期を舞台にした映画によく似あうと思う。私は小津の映画をすごく面白いと思ってみるのだが、小津映画に出てくる登場人物はえてしてセリフが棒読みである。現代に生きる我々が当時の生活がどんな風で人々がどんな語り口だったかを参照するのには、当時の映画を見るのが一番手っ取り早い。そういう風に考えると今作のスパイの妻の中で一番当時の映画然としていたのは、実は東出くんだったのではないかと感じた。さらに、日本軍の将校としての役回りで、国への忠誠からある登場人物を追い詰めることになるが、その時の能面的な顔の表情等、見る者に恐怖を与えるふるまいがその背の高さと相まって迫ってくるようだった。

 

翻って、主人公のスパイの妻である蒼井優さんもよかった。特に国家秘密を知ってしまったのちの夫への愛に燃える姿は倹約と国家忠誠が浸透した昭和の街並みによく映える。高橋一生さんもそのスーツの着こなしやひょうひょうとした存在が得たいの知れぬ男感を醸していてよかった。私の親友が最近、高橋一生にドはまりをしているのだが、その理由を尋ねると一番の魅力は「声」にあるらしい。確かに耳に残る良い声。

 

クライマックスの演出は黒沢監督の真骨頂。演劇の舞台セットのようにも見せる病棟のシーンはこの世とあの世の境目に漂う世界のようで幽玄的だった。

意外にもテネットを見た時より時間の流れが早く感じ、もっと黒沢ワールドを見ていたいと感じる作品だった。