桐島、会社やめるってよ

読んだ本や見た映画についてのアレコレ

『趣味で腹いっぱい』

ここ最近で読んだ小説の中では、なぜかぐっときた本作品。

やさしさと肯定感にあふれた小説で、いや~な感情が少し洗われるかのよう。

 

主人公は、若い夫婦の小太郎と鞠子。

鞠子は、平安時代の日本文学の研究のため大学院まで行ったけど、卒業後は本屋でバイトしている女性。小太郎は、家族の教えである「働かざるもの食うべからず」を妄信しているので、正社員となってしっかり働こうとしない鞠子に対して、若干の違和感を覚える。鞠子は小太郎の転勤によって、バイトも辞めてしまい、主婦になる。主婦になっても、働こうとは思わずに、趣味の絵葉書や小説作成に没頭する。

そんな鞠子に対して、小太郎は「新しいことを始めるなら、きちんと先生にならったり、小説の賞を目指すべき」と思うものの、鞠子は、楽しいことを趣味のままにすることのすばらしさを疑わない。そんな平行線の2人だけれど、小太郎が書いた小説が賞を受賞したことをきっかけに、田舎に引っ越して、より趣味三昧の生活を送る。趣味ばかりしている鞠子だけれど、彼女の活動が次第に、そのコミュニティの人々の支えになる、という構図がとてもやさしくて暖かい。

 

働けない人に優しくない社会になりつつある日本だけれど、働かない人にだって食う権利はあって、社会全体が楽しく生きていく努力をみんなでしようよ、とういメッセージを感じた。