桐島、会社やめるってよ

読んだ本や見た映画についてのアレコレ

2020年に読んで面白かった本(下半期)

7月はさすがにステイホームに飽きてきて、気分転換のためにたまに近所のカフェにコーヒーを飲みに行ったりしていた。池澤夏樹個人編集の日本文学全集を何冊か試し読みした。近くの図書館には全30冊が、ほとんど誰にも借りられずに綺麗に並べられているので、近々再挑戦したい。ほかには、朝井リョウさんのエッセイ「風と共にゆとりぬ」では壮絶な痔ろう手術の経験について面白おかしく書いていた。文章の軽妙さに笑ってしまったが、自分も痔ろうになったらと想像したら背中に冷たい汗が流れた。そんなアンビバレントな感情を奇妙に体験した。さくらももこさんも確か水虫とか痔に関して面白おかしくエッセイにしていたが、そんな雰囲気か。7月はやる気を出して読みきったこの1冊をチョイス。 

 

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江戸時代の文学を現代の作家や研究者が現代語訳にアップデート。それぞれ訳者の特色や工夫がよく出ているのも面白い。まあ、そもそも物理的な本の重さに圧倒されて、読み切っただけですごい達成感がある。通言総籬は、いとうせいこうさんが訳者。江戸っ子で遊び人の3人の会話劇や女郎とのかけひきが特徴的で、特にこれといったあらすじはないといってもいい。当時の文化や風流が知ることができる、という意味で興味深い。乙(つまり、甲乙の中で乙を選ぶというのはメジャーではない方を選ぶ、他の人とは違うということ)という言葉もこのころかららしい。春色梅児誉美は一癖ある恋愛小説を多く手掛ける島本理生さんによる訳。本文とはかなり離れるけど、中学生だったか高校生だったか忘れたけど、自分が本を読めない時期に、なぜか島本理生さんの「ナラタージュ」だけは一冊読み切れたことがあり、そういう意味でちょっと恩を感じているので、島本さんの本はできるだけ読むようにしている。話を戻して、春色梅児誉美では色男である丹次郎を周りの女たちが助ける。男にとっては都合のいいストーリである点はすごい男女格差ではあるけど、丹次郎のなよっとした色男ぶりに対して女たちの芯の強さは目を見張るものがある。

好色一代男は、とにかくぶっとんだ好色っぷり。あちこちで浮名を流し、一生を誓った女を淡々と捨てていく様には清清さまで感じる。雨月物語は人間と人間ならざるものたちの奇妙で心をうつ話がクールな筆致でつづられており、静かな夜に読むのにちょうどいい。

 

8月の夏休みは近くのちょっといい感じのイタリアンに食べに行ったくらいで、それ以外はほぼ家にいた。突然欲を出し、「本気でFIREをめざす人のための資産形成入門」で働かずに不労所得で生きる未来を妄想したり、「スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営」を読むなど現在の仕事に対してネガティブな気持ちを出し始めたことがうかがえる。手を出した本が自分の精神的なバロメーターとなっているのがちょっとおかしい。一冊選ぶとしたら、お金を出して買ったこちらの本だろう(もう売ったけど・・・)。

 

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歴史に名を遺す「偉人」の妻たちはどんな人だったのか。ゴッホやメルヴェルは死んだ後に評価されたが、それは生前きちんと作品を残すことができたから。女たちはどうか。夫のために自らの制作活動や研究をあきらめた女たちの運命を記録したこちらの本。この本に出てくる才女たちは稀有な才能を持ったために、大学や絵のサロンでのちのパートナーと出会う。最初は夫とともに互いの才能を高めあおうと努力するのだが、結局家庭に入ることで、不幸な結末を迎えてしまった。当時の社会の女性への抑圧的な態度と女性へのそもそもな無関心みたいなものに理由があったと思う。それぞれの女性のエピソードの前には肖像画とか写真が見開きで乗っており、その美貌と先々の悲しい運命を予測したような瞳にはっとさせられた。中でも、ゼルダフィッツジェラルドカミーユ・クローデルのエピソードに心を打たれた。

 

9月は1泊2日で箱根へ。結構いいホテルにとまったのだけど、1泊ではもったいなかった感じ。いいホテルは2泊くらい滞在してのんびりするのが良さそう。南海キャンディーズの山ちゃんの「天才はあきらめた」とか能町みね子さんの「文字通り激震が走りました」などの軽めな本を中心に読んだ。あえてピックするならこちら。

 

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この間も、アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した(ジェームズ・ブラッドワース)という本を読んだのだけど、こちらは日本版。筆者の増田さんが小田原にあるアマゾン倉庫でピッキングのバイトを体験し、その心身をすり減らすような働き方を強いられる労働者の現状を記すことから始まる。その後、ジェフ・ベゾスの生い立ちや彼のビジネス観がわかるエピソードに触れ、取次業者や書店をぎりぎりと締め付ける弱肉強食を体現したような企業体質を明らかにする。消費者としてアマゾンの便利さを享受しているものの、アマゾンの経済圏で生きていくことが自分にとって有意義なのか、冷静になって考えるきっかけになった本。

 

10月はまさに休職した月。ほぼ家にいてのんびり過ごし、本も20冊近く読んだ。それ以外は上高地へ旅行。女の一生モーパッサン)や純白の夜(三島由紀夫)、女のいない男たち(村上春樹)等を読んだ。谷崎潤一郎の「猫と庄造と二人のおんな」と迷ったけど、元気の出るこちらの本を選んだ。

 

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確か、数年前にこちらの本が新書ながらとてもよく売れて、筆者の方も結構テレビに出ていたと思う。確かバッタのかぶりものをかぶってテレビに出られていて、人気者だったので、いつも通り天邪鬼な私は「ふ~ん」。

2020年になってやっと新書に手を伸ばしたら、予想以上に面白かった。アフリカではバッタの大群による被害が甚大で、しかもバッタの習性はいまだによくわかっていないことから、予防策がとれないという。ポスドク時代に、バッタの研究者として訪れたモーリタニアで、金なしコネなしの状態から智恵と熱意と工夫(a.k.a KUFU)で奮闘する姿を描いた本書。好きなことを純粋に追い求め、ガッツで乗り切る姿がかっこいい。理系の人ならでは(?)の実験方法のレクチャーなんかも興味深い。

 

11月は、仕事に復帰。まだ暖かい日々も多かった印象。ブログも結構書いていたのであらためて本の感想を書く必要はないのだけど、取りこぼしとしてこちらを。

 

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ガダラの豚は3部作。1から3ですべて異なる様相を呈していながら、一本の筋でつながっているのが面白い。1部は、新興宗教にハマる主婦を救うために奮闘する夫である人類学者のオオウベ教授とその友人の話。おそらくオウム真理教の事件も多少踏まえたであろうこの新興宗教。俗っぽさがにじみでる様に笑ってしまうが、人間は、インチキを見ながらありえない「奇跡」を信じてしまうのだろうなあ、と思った。

2部は無事に妻を奪還したオオウベ教授が、家族でアフリカ探検に行く。前半は家族がアフリカの道中でどたばた楽しげに過ごす雰囲気が楽しい。実際にアフリカにすむ民族の違い等、学術的に正しい情報がのっているそうで、それだけでも面白い。一方で、後半には怒涛の展開がまっており、あまりの話の展開に一瞬驚く。

3部は血みどろの闘い。ところどころの描写に血の気が引く部分も。おおむね楽しんで読んだ。1部からオオウベ教授のずっこけぶりを見て、ともに旅を続けてきた読者からすれば彼のカッコよさが発揮される最終シーンは胸アツ。

 

12月はまだ2週間ほど残っているので、これからどんな本と出合えるか楽しみ。すでにブログで書いたけど、一番面白かったのは「居るのはつらいよ:ケアとセラピーについての覚書(東畑開人)」。たまに心理士になればよかったな、なんて思うときもあるし、精神疾患というものに対して興味がある私にとっては、わかりやすく面白い素晴らしい本だった。