桐島、会社やめるってよ

読んだ本や見た映画についてのアレコレ

『にっぽん昆虫記』

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古い映画を見るようになったアレコレ

映画を見るのは好きなのですが、自他ともに認めるスマホ中毒なので、とくにこれといった事件が起きない映画は家で集中してみることができない(アダム・ドライバー主演の「パターソン」はきっと映画館で見たから良さがわかったのだ)。

 

だから基本的に激しいバイオレンス描写なんて映ることのない日本の古い映画を急にみるようになった理由はわからない。

しかし、20代後半くらいから家でソファにごろんとなりながら、日本の古い映画を見るのが結構好きになってきた。

きっとNetflixなんかで気軽に手を出せるようになったというのが大きな要因なんだろうけど。ありがとう 、Netflix

 

漠然と「日本の古い映画」なんて言っていますが、私が勝手に決めた定義で言うと①白黒で②字幕を付けないと基本的に何を言っているのかわからない映画が「古い映画」となります。

2020年に入って私が見て気に入った古い映画は1. 秋刀魚の味小津安二郎)2. 東京物語小津安二郎)3. 羅生門黒澤明)と今回ブログに書こうと思った4. にっぽん昆虫記(今村昌平)なのです。

 

にっぽん昆虫記のあらすじ

大正7年に農村に生まれたとめは、地主の家へ足入れ婚するものの逃げるように状況する。新興宗教での女との出会いから、売春宿で働きはじめ、次第にコールガールの組織のマダムに成り上がるように。田舎から娘の信子を呼び寄せるものの、売春業が警察にばれてしまい逮捕されてしまう。

 

衝撃的な近親相姦

映画の冒頭、子守歌を背景に虫がゆっくり歩くシーン。もうなんか子守歌も現代的感覚からいったら歌詞が怖いし、虫も気持ち悪いし最高です。

その後、主人公とめの母であるえんが出産するシーンに切り替わります。

どうやら、えんには間男がいるらしく、とめの本当の父親はえんと婚姻関係にある忠次ではなく、その間男であるよう。

すでに雲行きが怪しいです。

実際に血縁関係にない忠次ととめは(実際的な描写はないものの)一緒に寝ているらしく、近親相姦的な雰囲気を感じさせます・・・。

 

製紙工場で働き始めるとめですが、突如実家からの電報で父忠次が危篤であると告げられ慌てて実家に帰りますが、帰ってみれば忠次はぴんぴんとしており、家族が地主である本田家にとめを嫁入りさせるための策略でした。

 

あらすじを読むと「足入れ婚を強要させられた」って書いてあって足入れ婚ってなんや?と思ったので調べてみました。

足入れ婚とは、結婚当初は妻は自信の実家に住んだままで夫が妻の家に通う通い婚の方法をとり、一定期間後に妻が夫の家に移るという形態のよう。家族が勝手に結婚相手を決めていた時代なら確かにありそう。

 

周りに巻き込まれ続けるとめ

本田家から逃れるようにして、製紙工場で働くとめ。日本の敗戦が発表されたのちも実家に帰らないでいるうちに、製紙工場の係長と肉体関係になります。

このあたり、男に迫られたら拒むことができない女の悲哀を感じます。

係長が力を入れていた組合活動にとめも尽力しますが、当の係長が課長代理に昇進した結果、とめを疎ましく思い始めた男によってとめは製紙工場を首になります。

その後、メイドとしてアメリカ軍兵士と日本人のみどりカップルの家で働き始めますが、自分の不注意によってその家の子供が亡くなってしまいます。

この不幸の連鎖で追い詰められたとめは新興宗教に救いを求めます。

 

売春業に手を染めるとめ

そんなこんなで新興宗教に通い始めたとめでしたが、そこで出会った女性がまさかの売春宿の経営者でした。女の信頼を得、女中頭になりあがったとめでしたが、売春宿が警察に摘発された際に、すべてを警察にしゃべったことにより、経営者は逮捕。代わりにとめが当の売春宿で働く女たちを組織しコールガールのマダムに成り上がります。

もうこの辺となると、とめのふてぶてしさがすごいです。

過去、娘を不注意で死なせてしまったみどりに対しても、コールガールとして働くことを提案し始めます。さらに、年増だからという理由でみどりに支払う歩合をほかの女性よりも勝手に低く設定する鬼畜ぶり。戦後の動乱を生き延びた女はガチです。

 

信子と唐沢の関係

とめのパトロンであった唐沢でしたが、とめが売春業で逮捕されている間にとめの信子に手を出します(さらっと書きましたが、結構衝撃でした)。

信子は田舎の開拓を進めたく、そのための資金を唐沢に頼みます。

唐沢は情婦としての信子が惜しく、あの手この手を使って東京につなぎとどめようとしますが、信子は機転を利かせお金だけ手に入れ田舎に帰ります。

 

感想

全編白黒でしかも、話ことばが非常に聞きにくいので、これぞザ・日本の古い映画です。しかし、主役のとめを演じた左幸子の存在感はすごいです。

着物のぬぎっぷりも勇ましく、男に対峙するときに見せる目力も白黒とは思えないほど力強いです。

昆虫のごとく本能に従って生き抜いた女三代の生きざまを、とくと見せつけられた映画でした。すごくおもしろかった。