桐島、会社やめるってよ

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『カザアナ』

読み終わって、どこか牧歌的な雰囲気を感じさせる近未来の日本を舞台にしたディストピア小説だな、と思った。先日の森絵都みかづき』が結構面白かったので、同筆者の最新作『カザアナ』を読んでみての感想だ。

 

『カラフル』とか『永遠の出口』とかの、昔の作品がどうだったのか忘れてしまったのだけど、森絵都という作家は結構政治的な思想をその作品に込めているのだな、と意外に思った(今まで自分が気づいていなかっただけの可能性は高い)。政治的でない思想などこの世にはない、というのももっともな意見だけれど、それにしても、込められたメッセージはなかなか強め。それでもそんな筆者の作風を私は結構好きだなと思う。

 

本作『カザアナ』は東京オリンピックの景気浮揚策が不発に終わり、憲法も改正された(!)日本。海外では治安の悪化が進み、日本をバカンスの場所として選ぶ海外旅行客も多くなっている。日本はこれを機に、観光立国のために、「日本らしさ」を突き詰めて海外文化の排斥を進めるなど、極端な政策を推し進める。表面上の治安維持のために、空にはドローンが飛び、町にはセンサーが仕掛けられるなど、国家による監視機能も強まっている。日本の国土がその立地によってランク分けされており、例えば「Aランク」と定められた土地では、庭の樹木でさえ日本っぽいものに限られる等、日本らしい景観を強制される。国家の定めたルールに従わない思想は、アップルウォッチみたいな端末が取り締まり、個人の点数に影響する(たぶん、この個人の点数によって将来就ける職業に制限がかかったり、家を借りるときに影響するんだろう)。一方で、この政策から零れ落ちたいわゆる落伍者は地方に移送されたり、外国からの出稼ぎ労働者が地下にたてられる特別地区みたいなところに押し込められているなど、なかなかえぐい設定。

主人公は、アイルランド人と日本人のハーフのお父さんをもつ中学生の女の子理宇(りう)と小学生の弟早久(さく)、その日本人の母の3人で、ひょんなことから特殊な能力をもつ3人と出会う。彼らは実は平安時代に「風穴」と呼ばれ貴族たちから寵愛されていた能力者たちの子孫だった。彼らは、日常に忍び寄る国家からの監視とそれによって生じる理不尽という内容だったと思う。

 

まずどこが牧歌的だったかというと、この風穴の末裔の能力。「石読」「空読」「虫読」と呼ばれる3人で、石読はそこらへんに落ちている石の考えとかそこに残る記憶がわかる。空読みは今後の天候が読めて、虫読みは簡単にいうと虫使い。「アベンジャーズ」みたいな殺傷能力が極めて高い人はいない模様(力は使いよう)。さらに、人をむやみやたらに傷つけたりしないので、単純にいい人たちと思われる。

 

しかしそんなかわいい能力に対して、設定はなかなかに強い。さすがにすごいリアル!!とかは思わないけど、今の自民党(の中の日本会議をバックにした人たち)の思想をドロドロになるまで煮込み続けて、さらにスパイスを利かせたらこんな日本ができそう、っていう感じ。物語の終盤では、日本の領海問題に触れたうえで、他国とバチバチ張り合っている海域周辺の天然資源をアメリカの力で無理やり作出しようとする、っていう展開は近未来フィクションでも日本はアメリカに従属しているのね、っていう点で結構リアルだった・・・今はアメリカはわかりやすく日本の肩を持つようなことはしないだろうから、ちょっと違うかもしれないが。

 

というわけで、なかなかにエキサイティングな小説だった。ファンタジーが読みたい人とかには不評かもしれないけど、筆者もいろいろなモチーフに手を出し、挑戦しているんだろうな、と思い面白く読んだ。