桐島、会社やめるってよ

読んだ本や見た映画についてのアレコレ

2020年に読んで面白かった本(上半期)

最近映画も見ていないし、本も読んでいないのでネタがない・・・。

仕方がないので、2020年に読んで面白かった本についてあーだーこーだ言う記事にする。とりあえず今日は1月から6月までの上半期。

 

1月といえば、新年の目標を紙に書いて所信表明したくなるのはいつものこと。毎年高すぎる目標(英語を毎日勉強するとかね)を掲げて三日坊主にもなれない、という私。今年はそこそこゆるい目標を計16個。その中で、「120冊の本を読み、簡単に感想をメモする」という目標をたてた。そんなやる気まんまんな月だったので、能町みね子さんの「結婚のやつ」とか「横道世之介吉田修一)」など10冊ほど読んだ。その中でも特に面白かった本はこちら。

 

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同時通訳者でもある米原万里さん。素晴らしいエッセイも書かれて、天は二物を与えるなあと思った。この本では、チェコのソヴィエト学校に通った日々のこと、大人になってから再開した同級生たちとのことを書いている。 その中で、クラス一優秀なヤスミンカとのエピソードが興味深い。ヤスミンカはユーゴスラヴィア人で、彼女の帰国後、国では紛争が激化。このエピソードで思い出したのは、ボスニア人の友人のこと。同い年で29歳の彼は、幼少期に内戦を経験し、それでもタフに生きてきた。どうやらドイツに移住も決まったそう。私が仕事の愚痴などを言うと、仕事があるだけ幸せじゃないか、というのであった。出会う人それぞれに自分の生活からは想像できないエピソードがあることをあらためて実感したものだった。

 

2月といえば、ダイヤモンドプリンセス号で、コロナ感染者が出たというニュースをよく見た。あのときは対岸の火事のような面持ちだったが、今となっては牧歌的な空気が漂っていたなと感じる。2月に読んで考えさせられたのはこちら。

 

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ジャーナリスト宮下さんの「安楽死を遂げるまで」の続編と言ってもいいと思う。「安楽死を遂げるまで」では、筆者がヨーロッパで安楽死を容認、あるいはグレーな状態で認可している国々の実態を調査し、一人ひとりの患者が安楽死を選択する経緯や、医師、NPO等に対して繊細で実直な姿勢で取材をして書かれた本。確か、宮下さんは基本的には安楽死には反対の立場なのだけど、安楽死を手伝う医師等に疑問や違和感をぶつけ、終末医療のあるべき姿は何なのかを一つ一つ丁寧に探っていく姿勢がとても信頼できる人という印象を受けた。

さて、2作目のこの「安楽死を遂げた日本人」では、実際に安楽死を遂げるために海外に渡ろうとする女性との出会い、その経過をたどる。結局、安楽死の議論が難しいのは人の死が個人的なものと考えるか、社会的なものととらえるかが、個人の見解に大きく左右され、結果として社会全体のコンセンサスが得られないからだと思う。いずれにせよ、いつかは必ず死ぬ、そしていつ死ぬかわからない自分自身・家族について、どのような最期を迎えたいのか、丁寧に話し合うことが必要だと思った。

 

3月は少しずつコロナへの警戒心が高まっていた時期。それでも春の陽気に誘われて外出はしていた気がする。なぜかこの時期は、政権に対する不信感がすごく強くて、週刊文集を買って読んだり、国会中継を観たり一国民としての内閣への監視機能を強めていた(笑)。そんな3月に読んでおもしろかったのはこちら。

 

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福沢諭吉の自伝。原文でよむのが辛ければ、斉藤考先生による現代語訳もあるので、そちらでもよい。これは単純に面白かった。普段お札で見ていた諭吉先生。今までどんな人物だったのか知らなかったのがもったいない。もっと堅物な人間かと思いきやとんだぶっ飛び人間だった。緒形洪庵先生の熟成だったころに、道で歌う三味線弾きに盗んだ皿を投げつけたり、友人に毒が入っているかもしれないフグを食べさせるなど、エピソードはもりだくさん。それでもめちゃくちゃ勉強したことはしたらしく、病気になって、さて横になろうか、というときに今まで夜はずっと寝ずに勉強しており、自分が枕を持っていないという事実に気づいたという。IKKOさんの「どんだけ~」という声が心の中で響いた。

 

4月。4月は緊急事態宣言が出された。確かトイレットペーパーとかもなくて、結構大変だった記憶がある。外に出るのも犬の散歩くらいだったので、本を読んでいた。「ペスト(カミュ)」や「戦中派不戦日記(山田風太郎)」等も面白かったけど、一番しっくりきたのはこれだった。

 

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三四郎、それからに続く3部作目。友人の妻を奪い、社会的信頼も家族関係も失った宗助が、妻御米と手を取り合ってひっそり暮らす様子がどこか寂し気だが愛おしい。非社交的な宗助が、裕福で鷹揚に構えるご近所さんである坂井との交流のようすも楽しい。そんな交流が、過去の暗い過去と現在をつないでしまう。自罰的な感情に押しつぶされそうになる宗助は、仏門に救いを求める。しかし、彼を救うはずだった宗教の門は開くことなく凄然と目前にそびえたつ。俗世に粛々と生きる宗助は今後も冬の訪れとともに暗い穴に落ちそうになる。それでも、心を決めて御米と生きていく、そんな静かな決意みたいなものが見える。「それから」の劇的なクライマックスもいいけれど、「門」の静かな終わりもしみじみ良い。

 

5月のゴールデンウィークもずっと家にいたが、やけに天気が良かったような気がする。寒くなってきた昨今を思えば、暖かいだけで気持ちが前向きになるのかもしれない。5月は「断腸亭日乗永井荷風)」や「日の名残りカズオ・イシグロ)」「ファーストラブ(島本理生)」等を読んだ。中でも衝撃的だったのはこちら。

 

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2018年公開のドキュメンタリー映画「沖縄スパイ全史」の作成にあたり行った取材をもとに書かれた本。沖縄で、遊撃戦に参加した少年護郷隊の証言をはさみながら、少年たちを指導した陸軍中野学校出身の隊長らの生涯、日本軍による住民の虐殺について書かれている。戦時下の異様な空気や疑心暗鬼に陥る人々の内情を知り、75年前の日本社会について思いをはせた。当時15歳前後でスパイ活動に参加したおじいたちが語る内容には衝撃を感じた。戦後75年となり、当時を知るものが少なくなってきた現代の日本にとって貴重な証言であることは間違いないと思う。

 

6月は本に飽きた月だったというか。あまり難しい本は読めなくなっていたので、エッセイとか軽めの本を数冊読んだ。その中でも軽く読めて面白かったのはこれ。

 

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辛酸なめ子さんが、世界の恋愛文学(クラシックから現代小説まで)を縦横無尽にガイドしてくれる。結構あらすじをざっくり説明してくれるので、作品自体を読んだ気になれ、それだけでも面白い。さらに辛酸なめこさん独特の視線で、解説が入るので、「ほお、こういうところに着目しているのか」とか「こういう表現で、あれだけのすごい妄想を・・・?!!」といった、彼女の脳みその中の働きを追体験できる感覚がなんともいえぬ面白さだった。ジャン・コクトーの「恐るべき子供たち」と「デカメロン」が中でも気になりました。原作を読んでみようと思う。