桐島、会社やめるってよ

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『ゲティ家の身代金』

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映画『ゲティ家の身代金』が日本で劇場公開されたのは2018年5月のことらしい。2018年5月といえば、私はまだ新卒で入社した会社で働いている頃だった。手元にある日記帳には当時の断片的な日常の記憶がつづられており、それを見る限りでは、仕事をしながら転職活動をしていたようだ。そして、この『ゲティ家の身代金』のポスターをどこで見たのかははっきりとは定かではないのだが、明らかに私はこの映画のポスターをどこかの地下鉄の駅の構内で見た。と、まあ、それだけのことで、この話には何のオチもないのだけれど、あれから3年以上たって、当時ちょっと見たいなと思っていた映画を見てみると、当時の自分の感情とか考えに少しだけ接近できるような気がして、懐かしい気持ちになる。

 

ゲティ家の身代金』は1970年代に実際に起きた身代金誘拐事件を元にしてつくられた映画。石油王で超超超富豪のおじいさんであるジャン・ポール・ゲティを演じたのはクリス・プラナー。ジャン・ポール・ゲティの息子と結婚の後、薬物中毒となった夫と離別した女性ゲイルにはミシェル・ウィリアムズ。ゲイルの息子で、ジャン・ポール・ゲティから見たら孫である、ポール三世がある日誘拐され、ゲイルに対し多額の身代金を請求するところから物語が始まる。この誘拐事件より以前に、ゲイルは夫と離婚しており、その離婚調停に際しては、ゲティ家の莫大な財産分与を断っている。ひとえに財産分与を受けると親権をゲティ家に奪われる可能性があったからだ。それゆえに、誘拐犯に支払うお金を持っていない。仕方なくゲティに金銭的な支援を頼みにいくのだが、ゲティは冷淡にも「私には孫が14人いるから、誘拐の一つ一つに対応していたら、お金が尽きてしまう」といって、1円も出さずに、自らの身辺警護の責任者である元CIAのフレッチャーを人質公証人として派遣するのみ。その後、ゲイルは誘拐犯とのタフな交渉を続ける傍ら、ジャン・ポール・ゲティから資金援助を受けようと画策する・・・。みたいな話でした。

 

内容だけ書くと、誘拐犯から息子を取り返す話、というわりかしシンプルな話なのだけど、この映画を面白くしているのは、やはり登場人物のユニークさと、そのユニークさを映画で表現した俳優陣の演技だと思う。実際のゲティ家というのも調べてみると、なかなか面白いらしいし。

 

まず、なんといっても大富豪ジャン・ポール・ゲティを演じたクリス・プラナーはさすがの貫禄。自分はローマ帝国の王の末裔だなんて、いってもなんだか謎の納得感があるそのオーラはすごい。そして守銭奴っぷりがすさまじい一方で、どこか家族からの愛は求めているような寂しさみたいな影も抱えていて、その両面性が面白い。もともと、ケヴィン・スペイシーがこの役を演じていたが、急遽降板したわけだが、今となってはクリス・プラナーケヴィン・スペイシーの両者の演技を見てみたい気もする。

 

そして母親役のミシェル・ウィリアムズ。私はミシェル・ウィリアムズのファンなので、彼女が出ている映画は結構見ているのだが、本作のミシェルは本当に大きい子供がいるお母さん、っていう雰囲気がすごくあってびっくりした。ついこの間まで、若夫婦の妻役とか小さい子供がいる母役だったのに。本作の後に公開されたアメコミ映画『ヴェノム』ではやっぱりかわいい役だったので、それはそれで豹変ぶりにびっくりした。

 

この映画には衝撃展開とかはない代わりに、途中のある「うえええ、痛い・・・」っていうシーンはすごく嫌で、さすがに家で見ていて先送りしてしまいました・・・。映画館じゃなくてよかった。それ以外は金の亡者となった富豪の寂しさとか、息子を守りたい母親のたくましさとか、重厚な映像の中で繰り広げられる二重の闘いが面白く展開されていて、よかった。