桐島、会社やめるってよ

読んだ本や見た映画についてのアレコレ

『みかづき』

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私が読書を好むのは様々な理由がある。

その理由の一つとして、本を読んだり、はたまた手に取るだけで過去の思い出が蘇るのが面白いということがある。

それも今回の本を手をとった時にも突然立ち上がった思いだった。

 

みかづき』の作者 森絵都といえば、『カラフル』とか『DIVE』など青少年向けの本で有名だと思う。私も小学生か中学生のときか忘れたが、母親の運転する赤のワゴンRの後列で寝転がって読んでいた気がする。しかし、それ以上に思い出深いのが『永遠の出口』という本だった。あらすじとか結末はもはや覚えていないのだが、図書館で本を探す時に子供向けコーナーではなくて大人向けコーナーにも足を伸ばし始めた頃に借りて読んだ記憶がある。主人公の女の子が成長してグレたりなんだりしながら大人になっていく様を読んだ。それまで、子供が大人になる話を子供向け本ではあまり読んでいなかったから、子供がグラデーション的に成長していく様を読んでなんだかびっくりしたと同時に面白さをを感じたものだった。それ以来、図書館に行くたびに森絵都の新しい作品がないかは私のチェック項目となった。

 

今回、久々に図書館でぼんやり歩いていたら森絵都の長編小説が並んでいて、同時の記憶を思い出した。

 

みかづき』は千葉の小学校で用務員として働く若い男吾郎が、その学校に通う小学生蕗子とそのシングルマザーの千明と出会い、ひょんなことから千明と共同で塾を設立し、家族となる。吾郎&千明夫婦とその娘たち、孫たちの三代にわたる教育にまつわる奮闘をベースに、家族の分離と復活を描いた長編小説である。

用務員、とか吾郎という名詞から分かるように舞台の始まりは昭和30年代。戦後民主主義のもと立ち上がった義務教育から、昭和後期の塾ブーム。バブル崩壊後に格差社会が進む日本社会での教育のあり方など、実際の日本における教育の歴史とともに、主人公たちの力強い生き様がみずみずしく描かれる。

 

歴史というのは社会の共有の記憶である、とどこかで聞いたけれど、社会が健全に機能するのには教育が重要ということをしみじみと考えた。と同時に現状の教育は常に満ちることがない、何か欠けているのだという認識こそが、よりよい教育への第一歩だという教育者のメッセージも感じた。

 

三世代の家族の生き様を描くわけで、なかなかの長さがある。正直、ところどころ中だるみを感じてしまい、ずっと集中して読めたわけではないが、暗いニュースが続く日本社会の底力を信じたいというような元気が出る本だった。