桐島、会社やめるってよ

読んだ本や見た映画についてのアレコレ

『決壊』

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徒歩5分の場所に図書館があることの素晴らしさ。もし今後引っ越しするとしても、図書館が徒歩5分の場所にあること、それを必須条件にしたい。この1年間はコロナ禍ということもあって、どこかに出かけることもあまりなく、ただひらすらに本を読んだ。これも、ひとえに近くに図書館があるからだと思う。

 

先週、気持ちがもやもやしたままに赴いた図書館で、こちらの本をピックアップ。平野啓一郎さんの本は小説は実はまだあまり読めていない。

昔、ベトナムのダナンに旅行したとき、『マチネの終わりに』を読み面白いなと思った。その後、その本は、福山雅治石田ゆり子主演で映画化された。最近になって、『ある男』を読んだところ、なぜか「この内容を原作にした映画を観たことがある」という印象を抱いた(実際には、そんな映画は存在しなかった。単純に、脳の中でほかの映画、あるいは本と混同していた)。一方で新書では『カッコいいとは何か』を読み、奥深い教養と人間の本質へのするどい洞察力を感じた。平野さんといえば23歳の若さで芥川賞を受賞され、三島由紀夫の再来とまで言われた方である。おまけにTwitterでの政権批判の内容の真っ当さとかも含めて、だいたい一回り年が離れた私からすれば「頼りになる兄貴」的な存在である。

 

さて今回手にした『決壊』。純粋な悪についての話だと感じたが、読み進めるのがなかなか難しい内容だった。主要な登場人物は、地方都市に妻と幼い子供と住み平凡な生活を送る良介とその兄で理性的で天才肌の崇。良介は子供のころから何でもできる兄に尊敬のような違和感のようななんとも言えぬ感情を持っており、その違和感を匿名のホームページに日々書き連ねる。その違和感がいつからか悪意を持つ男に利用され、殺人事件に巻き込まれる。

 

終盤に差し掛かるまで、殺人事件の首謀者の素性は明かされないが、殺人を手伝う少年北崎友哉との長尺の会話には平野啓一郎のこだわり、というか作風を感じた。おそらく子供のころから多種多様な本を読んできた作家だと思うのだけど、三島由紀夫のような哲学的問を掘り下げたいという意思が伝わってきた(自分の頭ではなかなか解説できない・・・)。思えば、三島由紀夫も『美しい星』という小説で、人類滅亡を願う宇宙人と人類救済を考える宇宙人との間の長尺の会話劇が、ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』の「大審問官」の章を意識して書いたことがわかるように、過去の名作をかみ砕き、自らの作品に反映していく作業には、人類の英知の集合性というか連続性を感じてただただ圧倒された。