桐島、会社やめるってよ

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『服従』※ネタバレ

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2022年のフランス大統領選で、マリー・ルペン率いる極右政党をやぶり穏健派のイスラーム政権が誕生する。イスラム政権下では、様々な改革が進み、国立大学の教授や生徒はイスラム教徒に代わっていく。ノンポリでインテリな「僕」はフランス第四大学で文学を教えていたが、イスラム教徒ではないために40歳にして職を失う。しかし、それは決して力づくなものではなく、今後彼には十分な年金が支払われるとう合意の元である。職を失い、ユダヤ人の彼女も去った「僕」は個人の自由と絶対者への服従の両者で揺れ、最終的にはイスラム教へ改宗することを決意する。

 

以前読んだ「プロットアゲンストアメリカ」が過去の起きなかった歴史についてのフィクションだとすれば「服従」は近未来の起きそうで起きないフィクションだと思う。

ちょっと、自分の中できちんとした感想がまとまっていないので、文章としてもまとまっていないし、事実誤認がある気がするけど、気にせず書く。

 

服従』の舞台であるフランスでは大統領選では最終的に上位2つの党の決選投票が行われる。作中では、予備選の得票率の第一位に極右政党が、第二位にイスラーム政権がつく。その後、決選投票が迫る中で、極右が政権を握ることを案じるその他の中道左翼勢力が、イスラーム系の政党に連合する、という筋道となる。この点は実際のフランスではおこらなさそうなポイントだと思う。それでも、移民とテロの2つの問題が内在するヨーロッパ社会では、いかにイスラームダイナミクスに対処することが当面の課題であることが伝わってきた。この本が欧米でベストセラーになったことはその証左なんだろうと思う。

 

この本の根底に流れるテーマには①イスラームと移民社会の関係と、②個人の自由と服従という2つがあると思う。

1つめのイスラームと移民社会についてはすでに書いた通りで、移民が社会に与えるインパクトとそれによって引き起こされる社会の分断がある。

2つめの個人の自由と服従という相反するアイデアについて。フランスでは個人主義というイメージがあるが、それを体現するのは主人公の「僕」だ。インテリでお金にも不自由しない。結婚というのは特に考えておらず、毎年入学してくる大学生と軽く付き合う程度。それが大学という権威から自由になったとたんに、生きる気力みたいなものを少しずつ失ってしまう。その後イスラム教の教えに触れ、その教義にどこか違和感を感じつつも、大いなる権力に服従することの安らかさには勝てずに改宗してしまう。服従とは少し違うけれど、谷崎の「猫と庄造と二人のおんな」の中で、二人のおんなと庄造が猫の怪しい魅力に取りつかれ隷属するその滑稽さと謎の多好感みたいなものに似ている気がした。