桐島、会社やめるってよ

読んだ本や見た映画についてのアレコレ

『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』

鈴木大介さんによる『最貧困女子』は福祉のセーフティネットにも捕捉されず、また家族や友人、地域社会との縁からも遠いまさに最貧困に陥った若い女性の存在にスポットが照らされた衝撃的な本だった。しかし、鈴木さんがその本の中で指摘されていたように、今や「貧困女子」というキーワードはネット記事でビュー稼ぎに使用されてしまうようないわばエンタメ化されてしまう危うさをはらんでいる。そして貧困に関する記事につくヤフーコメントには「自己責任」という文字が躍る。再貧困女子のずしんと来る重さとは違う、もう少し軽い、生き方に関する個人の選択とその選択の帰結について考える本がこの『だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人』だった。まあ、今はコロナの影響で、この本で抱えれているような生活ができているかはわからない。少なくとも、この本が書かれたのは、コロナの影響なんて、これっぽちもなかったまだ世界が平和な時の話。

 

日本企業がコスト削減のために、コールセンターをバンコクに移す。そして手取り15万円くらいの給料でバンコクで暮らす日本人がいるらしい。日本を出た理由はそれぞれだ。旅行で訪れたバンコクの自由な雰囲気に惹かれた人や、タイの男性を追いかけてバンコクに来た人、日本で作った借金から逃れてタイにいった人など。それでも、バンコクでのコールセンターの業務に満足している人もいるが、その単調さや将来への不安から結局辞めて日本に戻ってくる人たちも多いらしい。もっと言えば、日本に帰ってくるためのお金もなく、そのあと消息を絶った人もいるらしい。いろいろな生き方を選択する人の人生を知ると、それはある意味で自分が選択しなかった人生について考えるきっかけになる。この本を読んで、自分の今の立場や生活が様々な過去の選択の上に積みあがっているという事実にあらためて気づかされる。